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mt-iです。フランスでの非実在青少年の性描写所持規制の経緯をもう少し詳しく調べてみましたが、かなり示唆的かと。以下は手短に説明します。 フランスにおける児童ポルノ規制は1994年に遡る。当時は実在する未成年者の「ポルノグラフィーの特性を持つ」画像の製造と配布しか禁止されていなかったのです。 ベルギーのマルク・デュトルー事件を背景に、1996年あたりから仏マスコミは「ペドフィリア」に対するモラルパニックに襲われました。警察は何百人の男性を未成年に見える少年の淫らな画像を所持していた容疑で一斉逮捕したりして「ペドファイル犯罪」を厳しく取り締まるスタンスを取りました。容疑者たちの名前や顔写真を堂々と晒しながらメディアは事件を大々的に報道しました。容疑者の自殺が続々。ほとんどの場合、容疑が薄く、起訴の根拠は薄弱だったのは、数年後に判明しました。(ちなみに単純所持は特殊犯罪ではなかった頃ですが、問われた罪はrecel de corruption de mineurs「未成年者を堕落させたことによって作られた代物の所持」) そんな中1997年に、児童ポルノをはじめ性犯罪に対する罰則を強化しようとした「性的犯罪防止抑止及び未成年者保護に関する法案」が提出されました。新技術に対する不安が大きかった時でもあったので暫定法案はインターネットなどの新規規制を導入していましたが、上院審議会Charles Jolibois会長は「児童ポルノ合成画像」への深刻な懸念を示して「未成年者の画像又は描写」(l'image ou la représentation d'un mineur)を罰するべきだと主張しました。そういう風に改正された法案が1998年に最終可決されました。審議記録を読むと、意図された罰則対象は明らかに「実在人物の写真とは識別できない写実的ポルノ画像」ではありますが「représentation」という単語は非常に曖昧なので、広義に解釈すると実在人物とは関係のない絵画や描画も規制対象となるのです。 また2001年に、ポルノや性犯罪とは無関係であるはずだった「親の権威に関する法案」の第二次下院審議の時、Catherine Picard議員は「児童ポルノの単純所持を 罰する規定」が必要であるとしてこの法文に入れることを提案しました。それに対しSégolène Royal家族担当大臣は「来る横浜の児童性的搾取に反対する世界会議にてのフランスの地位を強化する提案だ」という肯定的な意見を示したほか、上院審議中に「購入者がいるからこそ、あんな恐ろしい物が製造されるのだ」と主張。改正法案は異論なく可決されました。驚くことなく、依然として規制されていた非実在青少年のreprésentation「描写」も所持罰則対象。 要するに、非実在青少年の「描写」は1998年に、そして単純所持は2002年に禁止されましたが、しばらくの間「描写」に対する追訴は一切なかった結果、規制範囲は漠然なままでした。2003年にフランス人権連盟・創作自由監視委員長Agnès Tricoire弁護士がこう書きました。「刑法227条23項に於けるreprésentationという単語は美術的描写も該当するのだろうか。仮にそうであれば、こんな描写の各々の作者に法律に定めた精神鑑定(刑法706条47項)を受けさせるべきだろうか。精神鑑定は未成年被害者への損害を考慮しなければならい(刑法706条48項)が、どうなるのかね。」 だが結局、2006年にフランスの日本アニメ配給会社Kazeの社長ら3人が、未成年者の描写を含むエロアニメ『淫獣聖戦ツインエンジェル』を配布したとして有罪判決を受けました。フランス最高刑事裁判所「破毀院」まで上訴しましたが、水の泡でした。というか、破毀院がはっきりと「アニメや漫画は規制の対象だ」と書いてしまった厄介な先例。しかし十数万円程度の罰金刑となって、実在児童ポルノの実刑判例に比べたら「寛大」な判決だったからか、私が知っている限りは反響が殆どなかったのです。正直に言えば、Agnès Tricoireら創作自由擁護派は「美術」を守ろうとしているので、彼女らから見れば日本のエロアニメは美術であるか、守る価値があるかは疑問。 去年2012年にいよいよ懲役判決が下された時も知識人反応はなかったようです。今回は日本のエロ同人誌でした。 read more
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